第6章 指数・対数
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6.1 指数関数
これから自然現象や社会現象を表すのによく使われる関数をいくつか学ぶ
$ f(x)=a^xという関数($ aは正の定数)
$ aが$ 3より若干小さい数では$ y=a^xとその導関数が一致しそう https://gyazo.com/128ad242193eecb0c3ac2246b447fdfchttps://gyazo.com/e45b80691705ac2582ca7d911f3cc658
色々試すと$ a=2.71828\cdotsのときに一致する
$ (e^x)'=e^x\qquad(6.1)
$ e^xを$ \exp xと書くことも多い
ネイピア数$ eは次式を満たす
$ e=\lim_{h\rightarrow0}(1+h)^{1/h}\qquad(6.2)
あるいは$ 1/hを$ nと置き換えて
$ e=\lim_{h\rightarrow\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n}\qquad(6.3)
実は$ e^xは次のようにも表される
$ e^x=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(1+\frac{x}{n}\right)^n\qquad(6.4)
これを使うと以下のような問題が楽に扱える
例6.1
一年間の利率が$ rの場合、$ x円のお金を銀行に預けると一年後には$ rx円の利子がついて、お金は$ (1+r)x円になる
$ n年後には$ (1+r)^n倍になることがわかる
問110
ある地域で大災害をもたらす豪雨が平均的に$ n年に1回の頻度でランダムに起きる(1年に2回以上は起きないとする)
(1) その豪雨が今から$ 1年間に$ 1回も発生しない確率
$ 1 - \frac{1}{n}
(2) その豪雨が今からの$ 2年間に$ 1回も発生しない確率
$ \left(1- \frac{1}{n}\right)^2
(3) その豪雨が、今からの$ n年間に1回も発生しない確率
$ \left(1- \frac{1}{n}\right)^n
(4) $ nが大きな値になると、前小問の確率はどのような値に近づくか
$ 0
(5) 平均的に$ 1000年に$ 1回起きる豪雨が、$ 1000年間に$ 1回以上発生する確率は?(有効数字4桁で)
$ 0.3677
この問題は災害リスク等を評価・解析する上で最も基礎となる考え方でもある
改めて$ y=e^xのグラフ
$ e^0=1なので、このグラフは$ (0,1)を通る
$ x=1のときは$ y=e=2.718\cdotsだから、$ (1,2.718\cdots)を通る
$ xが$ 1増えるたびに$ yは$ 2.718\cdots倍になるので、$ xが大きくなるにつれてこのグラフは急に上に伸びていくだろう
$ x=-1のときは$ y=e^{-1}=1/e=1/2.718\cdots
$ xが$ 1小さくなるたびに$ yは$ 1/2.718\cdots倍になるので、$ xが負の方に行くにつれて、グラフは急激に$ x軸に近づいていくだろう
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$ y=e^{-x}は$ y=e^xのグラフを$ y軸に関して対象移動したもの
これを$ e^yと$ y=-2xの合成関数と見れば式(6.1)に注意して
$ f'(x)=e^{-2x}(-2x)'=-2e^{-2x}\qquad(6.5)
例6.3 $ f(x)=xe^{-2x}を微分
$ xと$ e^{-2x}の積とみなして、積の微分の公式より
$ f'(x)=e^{-2x}+x(e^{-2x})'\qquad(6.6)
右辺第二項の中の$ (e^{-2x})'は、上の例より$ -2e^{-2x}となる
これらを組み合わせて
$ f'(x)=e^{-2x}-2xe^{-2x}=(1-2x)e^{-2x}
例6.4 $ f(x)=e^{-a/x}を微分($ aは$ 0以外の定数)
これを$ e^yと$ y=-a/xの合成関数と見れば
$ f'(x)=e^{-a/x}\left(-\frac{a}{x}\right)'=e^{-a/x}\left(\frac{a}{x^2}\right)=\frac{ae^{-a/x}}{x^2}
6.2 対数
$ \log_ax
正の実数$ a, x($ a\neq1)について、「$ aを何乗すると$ xになるか」
この定義より、以下は同じこと
$ \log_ax=y\qquad(6.7)
$ x=a^y\qquad(6.8)
式(6.7)を使って式(6.8)右辺の$ yを置き換えると
$ x=a^{\log_ax}\qquad(6.9)
問113 $ a,b,cを正の実数として、以下を示せ($ a\neq1, (8)(9)では$ b\neq1, (10)では$ c\neq1)
(1)$ a^{\log_ab}=b\qquad(6.10)
対数の定義より自明
(2) $ \log_aa=1\qquad(6.11)
$ a^1=aより自明
(3) $ \log_a1=0\qquad(6.12)
$ a^0=1より自明
(4) $ \log_ab+\log_ac=\log_abc\qquad(6.13)
$ a^{\log_ab+log_ac}=a^{\log_ab}+a^{\log_ac}=bc=a^{\log_abc}
(5) $ \log_a\left(\frac{1}{b}\right)=-\log_ab\qquad(6.14)
$ 0=\log_a1=\log_a\{b\times(1/b)\}=\log_ab+\log_a(1/b)
したがって、$ \log_a(1/b)=-\log_ab
(6) $ \log_a\left(\frac{b}{c}\right)=\log_ab-\log_ac\qquad(6.15)
(4)(5)より明らか
(7) $ \log_ab^c=c\log_ab\qquad(6.16)
左辺を指数として$ aの肩にのせると、(1)より
$ a^{\log_ab^c}=b^c
一方、右辺を指数として$ aの肩に乗せると
$ a^{c\log_ab}=a^{(\log_ab)c}=\left(a^{\log_ab}\right)^c=b^c
(8) $ \log_ab\times\log_bc=\log_ac\qquad(6.17)
左辺を指数として$ aの肩にのせると
$ a^{\log_ab\log_bc}=\left(a^{\log_ab}\right)^{\log_bc}=b^{\log_bc}=c
一方、右辺を指数として$ aの肩にのせると
$ a^{log_ac}=c
これらは等しいから、左辺=右辺
(9) $ \log_ab=\frac{1}{\log_ba}\qquad(6.18)
式(6.17)で$ cを$ aとおくと
$ (\log_ab\log_ba)=\log_aa=1
この両辺を$ \log_baで割ると与式を得る
(10) $ \log_ab=\frac{\log_cb}{\log_ca}\qquad(6.19)
式(6.17)で$ aを$ c, $ bを$ a, $ cを$ bに置き換えると
$ (\log_ca\log_ab)=\log_cb
この両辺を$ \log_caで割ると与式を得る
例6.5
底が$ 3である$ \log_35
自然対数
$ \log_35=\frac{\ln5}{\ln3}=1.464\cdots(6.20)
常用対数でも同じ
$ \log_35=\frac{\log_{10}5}{\log_{10}3}=1.464\cdots(6.21)
問115 $ xを任意の正の実数とする。次式を示せ
(1) $ \log_{10}x\fallingdotseq0.4343\ln x \qquad(6.22)
(2) $ \ln x\fallingdotseq2.3026\log_{10}x\qquad(6.23)
式(6.17) で解ける
世の中では常用対数と自然対数がよく使われるので、式(6.22)や式(6.23)がよく使われる
特にここで出てきた2つの定数はよく使われる
$ \log_{10}e\fallingdotseq0.4343\qquad(6.24)
$ \ln_{10}\fallingdotseq2.3026\qquad(6.25)
(6.24)と(6.25)の積は$ 1になる
$ \log_e10\cdot\log_{10}e = \log_ee=1
ところで、$ f(x)=e^xと$ g(x)=\ln xに互いに逆関数 これは対数の定義から明らか
実際
$ g(f(x))=\ln e^x=\log_ee^x=x\log_ee=x
となるし
$ f(g(x))=\exp(\ln x)=e^{\log_ex}=x
となる
これは式(4.33)と整合的
$ g(f(x))=f(g(x))=x
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$ y=e^xと$ y=\ln xのグラフは直線$ y=xに関して互いに対象(逆関数の性質) ここで$ y=\ln xのグラフは$ 0<xの範囲でしか描かれていないことに注意
$ \ln xという関数は$ x\leq0では定義されない
対数の微分
$ f(x)=e^xと$ g(x)=\ln xは互いに逆関数であり、かつ$ f'(x)=f(x)だから逆関数の微分により
$ (\ln x)'=g'(x)=\frac{1}{f'(g(x))}=\frac{1}{f(g(x))}=\frac{1}{x}\qquad(6.26)
となる(ただし$ 0<xとする)
つまり、$ \ln xの微分は$ 1/xになる
問119以下の関数をそれぞれ微分せよ
(1)$ \ln(x+1)ただし$ -1<xとする
$ \frac{d}{dx}\ln(x+1)=\frac{1}{x+1}\times(x+1)'=\frac{1}{x+1}
(2) $ \ln2xただし$ 0<xとする
$ \frac{d}{dx}\ln(2x)=\frac{1}{2x}\times(2x)'=\frac{1}{x}
(3) $ \ln |x|ただし$ x\neq0とする
$ 0<xのとき$ \frac{d}{dx}\ln|x|=\frac{d}{dx}\ln x=\frac{1}{x}
$ x<0のとき、$ \frac{d}{dx}\ln|x|=\frac{d}{dx}\ln(-x)=\frac{1}{-x}\times(-x)'=\frac{1}{x}
したがって、$ 0<xだろうが$ x<0だろうが$ \frac{d}{dx}\ln|x|=\frac{1}{x}
(4) $ \ln(x-1)ただし$ x>1とする
$ \frac{d}{dx}\ln(x-1)=\frac{1}{x-1}\cdot(x-1)'=\frac{1}{x-1}
(5) $ \ln(1-x)ただし$ x<1とする
$ \frac{d}{dx}\ln(1-x)=\frac{1}{1-x}\cdot(1-x)'=\frac{-1}{1-x}=\frac{1}{x-1}
(6) $ \ln|1-x|ただし$ x\neq1とする
$ 1<xのとき、$ \frac{d}{dx}\ln|1-x|=\frac{d}{dx}\ln(x-1)=\frac{1}{x-1}
$ x<1のとき、$ \frac{d}{dx}\ln|1-x|=\frac{d}{dx}\ln(1-x)=\frac{1}{x-1}
しがって、$ 1<xだろうが$ x<1だろうが、$ \frac{d}{dx}|1-x|=\frac{1}{x-1}
(7) $ \ln|(x-1)/(x+1)|ただし$ x\neq\pm1とする
$ \frac{d}{dx}\ln\left|\frac{x-1}{x+1}\right|=\frac{d}{dx}(\ln|x-1|-\ln|x+1|)=\frac{d}{dx}\ln|x-1|-\frac{d}{dx}\ln|x+1|=\frac{1}{x-1}-\frac{1}{x+1}=\frac{2}{x^2-1}
(8) $ \log_{10}xただし$ 0<xとする
また(7)は生物の個体群変動を解析する理論で出てくる 6.3 ガウス関数
$ aを正の定数として
$ f(x)=\exp(-ax^2)\qquad(6.27)
ガウス関数は統計学をはじめ、様々な分野で重要な関数 問120 ガウス関数に関して以下のことを示せ
$ f(-x)=\exp\{-a(-x)^2\}=\exp(-ax^2)=f(x)
(2) 常に$ 0より大きい
$ e=2.718\cdotsは$ 0より大きいから、それを何乗しても$ 0以下にはならない
(3) $ f'(0)=0である(だから$ x=0での接線は水平)
$ f'(x)=-2ax\exp(-ax^2)
これに$ x=0を代入すると$ 0
(4) $ xが大きくなると、$ 0に近づいていく
$ \lim_{x\rightarrow\infty}\exp(-ax^2)=\lim_{x\rightarrow\infty}\frac{1}{e^{ax^2}}\qquad(6.67)
$ 0<aだから、$ x\rightarrow\inftyのとき$ ax^2\rightarrow\infty
したがって、$ e^{ax^2}\rightarrow\infty
すなわち、式(6.67)の右辺の分母は$ \inftyに発散する
したがって、式(6.67)は$ 0に収束する
(5) $ x=0で最大値をとる
$ 0\leq xでは$ e^{-ax^2}は減少関数である
したがって$ x=0のとき最大値をとる
$ e^{-ax^2}は偶関数だから、$ x\leq0でも$ x=0のとき最大値をとる
これからガウス関数のグラフは$ x=0を頂点とする左右対称の山型のグラフになることが想像される
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$ \exp(-ax^2)=\exp\{-(\sqrt ax)^2\}だから、$ aが大きくなるとグラフは$ x軸方向に$ 1/\sqrt a倍になる
山型の幅が狭くなる
6.4 対数グラフ
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片方の軸が対数目盛のグラフ
実験データの解析などでよく使う
片対数グラフには以下のような特徴
$ 0が存在しない
下に行くほど$ 0に近づくが決して$ 0をグラフ上で表現することはできない
太い目盛りをひとつ移動すれば値が$ 10倍になる
細い目盛りをひとつ移動すれば最上位の桁の値がひとつ増える
片対数グラフを使う理由は2つ
対数目盛を使えば非常に範囲の広い値を程よくコンパクトに表現できる
そもそも自然界に多く存在する指数関数的な現象(細菌の増殖、光の減衰、化学物質の1次反応など)の様子を調べるのにこのグラフが好都合であること ある現象が以下の関数で表されることが確実な場合、実験データによって定数$ A, aを決定したい、ということがよくある
$ y=Ae^{ax}\qquad(6.28)
その場合、上の式の両辺の常用対数をとると
$ \log_{10}y=\log_{10}A+ax(\log_{10}e)\qquad(6.29)
この場合$ \log_{10}yは$ xの1次関数になる
これを片対数グラフにプロットすると、その傾き($ a\log_{10}e)から$ aの値がわかり、切片($ \log_{10}A)から$ Aの値がわかる
ただし、この方法で傾きを求めるには注意が必要
傾きは縦軸方向の変化量を横軸方向の変化量で割れば求まるが、その時縦軸方向の変化量は実際の変化量(対数を取る前の$ yの変化量)でなくて、いったん対数に変換した後の変化量($ \log_{10}yの変化量)
例えば図6.7の点Tと点S
実際の変化量は$ 30-4=26
対数としての変化量($ \log_{10}yの変化量)は右側の軸の値で考えねばならない
「縦軸の変化量」を得る
点Tから点Sまでの高さを定規で測り、一方で、太い目盛り線の間隔(右側の軸で$ 1に相当する変化量; 左側の軸では$ 10倍に相当する変化量)も定規で測り、前者を後者で割り算する
以下が成り立つ
$ 傾き=\frac{縦軸の変化量}{横軸の変化量}=a\log_{10}e\qquad(6.30)
したがって、以下で$ aの値が求まる
$ a=\frac{1}{\log_{10}e}\frac{縦軸の変化量}{横軸の変化量}\fallingdotseq2.3026\frac{縦軸の変化量}{横軸の変化量}\qquad(6.31)
ちなみに、もしも式(6.28)ではなく$ y=A\times10^{ax}のような関数を想定していれば、式(6.31)の$ 1/\log_{10}eや$ 2.3026という数字は必要ない
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両対数グラフを使う理由
片対数グラフと同様に、非常に範囲の広い値を、ひとつのグラフにコンパクトに表現するため
指数関数に劣らぬくらいに自然界に多く存在する、べき関数的な現象を調べるにはこのグラフが好都合 ある現象が以下の冪関数で表される場合、実験データによって定数$ A, aを決定したい、ということがよくある
$ y=Ax^a\qquad(6.32)
その場合、式(6.32)の両辺の常用対数をとると
$ \log_{10}y=\log_{10}A+ a\log_{10}x\qquad(6.33)
したがって、もし現象が冪関数的であるならば、そのデータを両対数グラフにプロットすると直線になり、その直線の傾き(適当な2点の間のグラフ用紙上での横の距離と縦の距離を定規で測って、後者を前者で割る)が$ aの値であり、切片($ \log_{10}x=0となるとき、つまり$ x=1のときの$ yの値)が$ Aの値
片対数グラフのときと違って、両対数グラフは、底が$ eのときも$ 10のときも直線の傾きは変わらない
6.5 指数関数の微分方程式
$ \frac{d}{dx}f(x)=3f(x)\qquad(6.34)
この式(6.34)は関数$ f(x)に関する方程式とみなせる
一般に、関数に関する方程式で、その関数の導関数も含むようなもの
代数方程式は$ xなどで表される「数」に関する方程式 その「解」は数値
微分方程式は$ f(x)などで表される「関数」に関する方程式
その「解」は関数
たとえば関数$ f(x)=x^2は式(6.34)の解だろうか?
左辺に代入すると$ \frac{d}{dx}x^2=2x
右辺に代入すると$ 3x^2
$ 2x=3x^2は恒等的には成り立たない
したがって、関数$ f(x)=x^2は式(6.34)の解ではない
一つの微分方程式には複数の解がありえる
ここでは証明しないが、式(6.34)の解は「$ 定数\times e^{3x}」という形の関数だということがわかっている
もっと一般的に言えば、以下のような定理が知られている
定理
$ \alphaを$ 0でない定数として
$ \frac{d}{dx}f(x)=\alpha f(x)\qquad(6.35)
という微分方程式の解(その方程式を恒等的に成り立たせるような関数)は
$ f(x)=\beta e^{\alpha x}\qquad (6.36)
という関数である($ \betaは任意の定数)
式(6.34)は式(6.35)で$ \alpha=3としたケース
解が複数あるのは式(6.36)で$ \betaの値が何でもよかったから
式(6.36)で$ x=0とおくと
$ f(0)=\beta e^0=\beta \qquad(6.37)
つまり$ \beta=f(0)と表すことができる
これを式(6.36)に入れると
$ f(x)=f(0)e^{\alpha x}\qquad(6.38)
大事なことは「式(6.35)の形の微分方程式の解は式(6.38)である」ということ
なぜならこの形の微分方程式が数学いがの様々な科学でガンガン出てくる
6.6 放射性核種(放射能)の崩壊
炭素には原子量12の普通の炭素原子の他に原子量13、原子量14の炭素原子がある このうち原子量13の炭素同位体($ {}^{13}\mathrm C)は原子核崩壊しないが、原子量14の炭素同位体($ {}^{14}\mathrm C)は徐々に原子核崩壊をして、原子量14の窒素原子($ {}^{14}\mathrm N)に変わってしまう $ {}^{14}\mathrm Cの個数を時刻$ tの関数$ C(t)で表すことにする
いま、時刻$ 0で$ C_0個の$ {}^{14}\mathrm Cがあるとする
時刻$ tのとき$ C(t)個であるとして、$ tから$ t+dtの間にその一部が放射性崩壊して別の元素(窒素)に壊変する
その変化は、まず、そのときの個数$ C(t)に比例する
これは常識的に明らかで、母数が倍になれば、一定時間内の崩壊回数も倍になる、というだけの話
時間間隔$ dtにも比例する
時間が長いほど崩壊もたくさん起こるだろうという常識的な判断による
ただし$ dtが長すぎると、その間にも個数$ C(t)がどんどん減ってくるので、この判断は成り立たない
以上の考察から以下のように書ける
$ C(t+dt)=C(t)-\alpha C(t)dt\qquad(6.39)
$ \alphaはなんらかの定数($ 0<\alphaとする)
$ C(t)は減る方向だから、右辺第二項の符号はマイナス
この式を変形すれば
$ C(t+dt)-C(t)=-\alpha C(t)dt\qquad(6.40)
両辺を$ dtで割ると
$ \frac{C(t+dt)-C(t)}{dt}=-\alpha C(t)\qquad(6.41)
ここで$ dtが十分に小さいことを考えると、左辺は$ C(t)の微分(導関数)
$ \frac{dC}{dt}=-\alpha C(t)\qquad(6.42)
これが放射性炭素の崩壊に関する微分方程式
式(6.42)は$ Cを$ f、$ tを$ x、$ -\alphaを$ \alphaに読み替えると式(6.35)になる
したがって、式(6.42)の解は式(6.38)のようになるはずだから
$ C(t)=C_0e^{-\alpha t}\qquad(6.43)
したがって、$ C_0つまり$ t=0のときの$ Cの値がわかれば、式(6.43)によって、その後の$ Cがどのように変化するかが、予測できる
ところで、放射性炭素の問題に戻ると、通常は式(6.43)のかわりに次のような式がよく使われる
$ C(t)=C_0\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{t_h}}\qquad(6.44)
$ t_hは半減期と呼ばれる定数であり、$ {}^{14}\mathrm Cの場合 $ t_h=5730年\qquad(6.45)
であることが知られている
問129
(1) 式(6.44)を横軸$ t、縦軸$ C(t)のグラフにかけ
https://gyazo.com/4f69e87236d25e2b97afed9c0af30f13
(2) $ C(t_h)はもとの値$ C_0の半分であることを確かめよ。この故に、$ t_hを半減期と呼ぶ
(3) 式(6.44)を式(6.43)の形に変形せよ
(4) 半減期は、式(6.43)の定数$ \alphaとどのような関係にあるか
(5) 式(6.45)から定数$ \alphaの値を求めよ
実際にこの式を使う場面ではむしろ「$ C_0だけでなく現在の値$ C(t)もわかっているが、$ tがわからない」という状況が多い
生物体は生きている間は大気の$ \mathrm{CO_2}のなかの$ {}^{14}\mathrm Cと同じ比率の$ {}^{14}\mathrm Cを持っているが、死ぬと地球大気との交換が止まるので、$ {}^{14}\mathrm Cが減っていく
一方、地球大気の$ {}^{14}\mathrm Cは宇宙線によって生産されるのと崩壊するのがつりあって、常にほとんど一定の比率をしていることがわかっている これらのことから、昔に生きていた生物体の遺骸の現在の$ {}^{14}\mathrm Cの比率を調べることで、その生物が生きていた年代を推定する
問130 昔の火山噴火によってできた火山灰の地層の中から出てきた木の枝の$ {}^{14}\mathrm Cの比率は現在の$ 1/4。火山噴火の起きた年代
$ C=C_0/4だから$ t=2t_h=11460年
6.7 化学反応速度論
様々な化学反応がどのくらい早く進むかを考える理論
ここでは単純に一種類の化学物質Aが別の化学物質BとCに分解するような場合を学ぶ
$ \mathrm {A\rightarrow B+C\qquad(6.46)}
反応は左から右に一方向にしか進まないとする
Aの量(モル濃度)を$ [\mathrm A] と書く
$ [\mathrm A] は時刻$ t の関数だから$ [\mathrm A](t) と書くべきだが、煩雑なので省略
$ dtは微小な時間間隔とする
この$ dtの間にAからB+Cに変化する反応の回数を考える
物質Aの全体の中のある割合が物質Bと物質Cに変わると考えられるから、反応の回数はAの現存量、つまり$ [\mathrm A] と時間間隔$ dtに比例するだろう
つまり、この回数はある正の定数$ kを用いて以下のように書けるはず
$ k[A]dt \qquad (6.47)
この回数の分だけ$ [A] は減るので
$ [A](t+dt)=[A](t)-k[A]dt \qquad(6.48)
式(6.40)~式(6.42)と同様に考えれば
$ \frac{d[A]}{dt}=-k[A] \qquad (6.49)
式(6.49)の左辺は$ [A] の変化の速さ、すなわち「反応速度」を意味する 反応速度が式(6.49)のように表現できるような化学反応を一次反応という $ kは反応速度定数と呼ばれ、主に反応の種類と温度、触媒の有無等によって決まる 式(6.49)は$ [A] を$ f、$ tを$ x、$ -kを$ \alphaに読み替えると、式(6.35)になる
したがって、式(6.49)の解は式(6.38)のようになるはずだから
$ [A](t)=[A](0)e^{-kt} \qquad (6.50)
$ [A](0) は反応のスタート時点での$ [A] の値だから、実験者はわかっているはず
したがって、式(6.50)によって、この反応中の物質Aの量がどう変化するかが、予測できる
農地に撒かれた農薬の残留性等も同様の理論で解析される
6.8 ランベルト・ベールの法則
化学物質が溶け込んでいる液体の中の化学物質の量や濃度を測る方法のひとつに、吸光度測定というものがある https://gyazo.com/f0a626181baa69f8168d58f304d58a44
光源・セル・センサーの3つで構成
セルにユーザーが計測したい試料溶液を入れる
入射光は溶液の中を進むにつれて溶質に吸収され、減衰するので、セルを抜け出た光(透過光)は入射光より弱い
透過光の強さをセンサーで測る
透過光が入射光に対してどのくらい弱まるかを溶液の濃度と関連づける
光の進行方向にそって$ x軸をとり、位置$ xでの光の強さを$ I(x)とする
光は溶液の中を微笑距離$ dxだけ通過すると、溶液の濃度$ c、進んだ距離$ dx、そして光自身の強度$ Iに比例して強度を失うだろう
したがって、位置$ x+dxにおける光の強さは、位置$ xにおける光の強さから、$ \kappa Icdxだけ弱くなっているはず($ \kappaは溶質の種類や光の波長によって決まる適当な正の定数)
$ I(x+dx)=I(x)-\kappa cIdx\qquad(6.51)
式(6.51)を変形すると
$ I(x+dx)-I(x)=-\kappa cIdx\qquad(6.52)
両辺を$ dxで割ると
$ \frac{I(x+dx)-I(x)}{dx}=-\kappa cI\qquad(6.53)
$ dxを十分に小さい距離で考えれば、この左辺は$ I(x)の微分(導関数)になるので
$ \frac{dI}{dx}=-\kappa cI\qquad(6.54)
この式(6.54)が溶液中での光強度の変化(減衰)を説明する微分方程式
次式が導かれる
$ I(x)=I(0)\exp(-\kappa cx)\qquad(6.55)
問132 次の2つの式を導け
$ I(x)=I(0)\times10^{-\kappa cx/\ln10}\qquad(6.56)
$ \frac{\kappa}{\ln10}cx=-\log_{10}\left(\frac{I(x)}{I(0)}\right)\qquad(6.57)
式(6.57)の右辺の中の$ I(x)/I(0)は透過光の強さを入射光の強さで割ったもの、つまり透過率であり、これは実験的に計測可能
$ xを特定の値$ dに設定する時(化学実験では$ d=1\mathrm{cm}が一般的)、式(6.57)の右辺を「吸光度(absorbance)」と呼び、多くの場合、$ Aと表記される $ A:=-\log_{10}\left(\frac{I(d)}{I(0)}\right)\qquad(6.58)
$ x=dのとき式(6.57)と式(6.58)によって
$ \frac{\kappa}{\ln 10}cd=A\qquad(6.59)
$ c=\frac{A}{(\kappa/\ln10)d}\qquad(6.60)
$ k/\ln10はモル吸引係数と呼ばれ、既に多くの物質について多くの化学者が実験によって正確な値を決定し、公表している $ dは前述のように既知
式(6.60)の右辺の$ Aに対する係数($ \ln10/(\kappa d))は実験条件で既に決まっている
$ Kで書くと
$ c=K\ A\qquad(6.61)
溶液の濃度$ cと吸光度$ Aは比例する
これによって、吸光度の測定値から溶液の濃度を知ることができる
普通、分光光度計で吸光度を測定する時は$ \mathrm{1cm\times1cm}の正方形の底面を持つ、角柱状のセルを用いる($ d=1\mathrm{cm}とする理由)
6.9 ロジスティック曲線
$ a,b,cを正の定数として
$ f(x)=\frac{1}{a+be^{-cx}}\qquad(6.62)
問135 以下の問いに答えよ
(1) $ f(0)=1/(a+b)であることを示せ
(2) 分母、すなわち$ a+be^{-cx}は$ xが増えるにつれて減少することを示せ
(3) $ f(x)は$ xが増えるにつれて増加することを示せ
(4) $ x\rightarrow\inftyのとき、$ f(x)はどうなるか
(5) $ x\rightarrow -\inftyのとき、$ f(x)はどうなるか
(6) $ f'(0)を求めよ
(7) 以上を元に、$ y=f(x)のグラフを手で描け
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